2018年9月24日に石垣島吉原海岸であった水難事故
事故の当事者(仮名Aさん)にインタビューする機会を得たので備忘録とします。
Aさんは東京から女性とお二人で石垣島に旅行で来られた34歳の男性で、スキューバダイビングとシュノーケリングもある程度キャリアを積まれた方のようです。
事故当日の時系列
16:30
吉原海岸(川平湾と米原ビーチの中間に位置する)のリーフパスと呼んでもいいくらい大きなV字型に鋭角に切れ込んでいるリーフギャップに一人でエントリー。
(注:このエリアは離岸流多発地帯として有名で過去にも水難事故が起きています。)大潮で4時間後に満潮を迎えるこの時の潮位(登野城港)は約100cm。
東側の米原ビーチの気象データは下記の通り。
晴れ時々曇り、気温30℃、北の風6m、海面水温インリーフ29℃・アウトリーフ29℃。海況は、べた凪だった前日までとは打って変わり、週末に石垣島を直撃すると思われる台風24号の影響で北からの風波とうねりが押し寄せ、リーフエッジでは大きなリーフブレイク(砕波)が幾重にも見られていました。
Aさんはエントリー後すぐに離岸流を感じたため、知り得ていた離岸流脱出のセオリー通りにビーチと平行に泳ぎましたが、左右どちらに向かっても強力な渦巻き(おそらく「潮目」と思われる)の中に閉じ込められてしまい、離脱不能の状態になったそうです。
ライフジャケットを身に付けていなかった彼は、幸い、渦巻き中央にたまるゴミの中にペットボトルを2個見つけ浮力体としたそうです。ただ、ゴミがシュノーケルの排水弁につまるトラブルもあったようです。
また、背負っていたリュックも多少の浮力を得るのに役立ったかもしれないとのこと。
渦に閉じ込められなすすべのない彼の脳裏には「死」という文字が何度も去来したそうです。
19:45
ビーチに残っていた連れの女性が警察と消防に通報。(エントリー後、何と3時間も経ってからの通報!)
20:45
消防隊ボートに沖合で救助されました。
すでに夜の帳が下りていた海上に救助隊員の照らす灯りを見い出した時の彼の胸中は察するに余りあります。
そして生還
パニックに陥らず冷静に努めた彼自身の経験値もプラスでしたが、消防・警察・海保など救助隊の尽力に敬意を表します。
【今回の教訓】
- 経験の少ないエリアでは一人で泳がず、経験豊富なバディと組むこと。
- 潮汐の把握をしっかりして、悪天候下では満潮前後のリーフギャップには近づかないこと。「満潮前後」をリーフカレントの発生しやすい「満潮後の下げ潮時」としてもよかったのですが、地形や風波、並岸流の影響で満潮前でも強い離岸流を米原ビーチなどで体験していて、リーフエッジで気付いても流れに勝てないことが多いので念のため満潮前後と記しました。
私の場合、具体的には潮位100~120cm未満ならばリーフエッジでカレントに負けないで立って歩けるので、むしろ潮位を目安にしています。
満潮前の離岸流はリーフカレントではなく、内地のビーチでもみられる並岸流が押し出すリップカレントかと思われます。米原ビーチなどはリーフエッジが岸から近いので区別がつきにくいですが。 - 泳力や浮力に自信が無ければ迷わず浮力体を携行する、ライフジャケット、ウェットスーツを着用すること。
- シュノーケルは予備のスペアを携行するのが望ましい。
今回の件ではゴミの渦の中で排水弁トラブルに見舞われていますが、平常時でもシュノーケルのトラブルはよくあります。 - 吉原海岸沖で「魔のVゾーン」(鋭角に切れ込んだ離岸流リーフギャップ)には行かないこと。
好天かつ大潮の干潮時はこの限りではないと思っていましたが、リーフギャップ中央に発生する渦巻き(おそらく「潮目」と思われる)の存在はそれだけで危険です。離岸流脱出ノウハウが通用しないようですからね。
結果として、この渦巻き(潮目)に捕まり浜辺から比較的近い定位置に閉じ込められたお陰で離岸流で沖に流されることはなく短時間での救助に繋がりました。
いずれにしても、この大きなVゾーン形のリーフギャップが危険地帯であることは間違いありません。
参考ページ
- リ-フカレントによる事故状況と海浜の安全利用【鹿児島大学水産学部海岸環境工学研究室(西隆一郎研究室)】
- サンゴ礁海岸での沖向流れ(リーフカレント)【鹿児島大学水産学部海岸環境工学研究室(西隆一郎研究室)】